すごいぞ、アスリート

「自己分析力」と「実行力」で常に自分自身をアップデートし続ける

石井 類(アメリカンフットボール)

スポーツ経験は、スポーツだけに還元されるものではなく、社会で生き抜くチカラに変換されていきます。
過去にスポーツをしていた、または現在もあるスポーツで活躍している人は、どのようにキャリアを選択して今、輝いているのか。
アスリート自身の経験談から「次の一歩」のヒントを得ていきます。

石井 類(いしい るい)
アメリカンフットボール
幼少期から中学生まで体操を経験。高校生の時にアメフトに出会い、大学にかけて競技に励む。現在は横浜を拠点とする横浜ベイクレーンズに所属。プレーヤーとして活躍する一方で、今年度から監督に就任。地域に愛されるチームを目指して日々活動中。
現職は就労支援サービスに従事。アメフトと仕事を両立しながらデュアルキャリアの道を歩む。
―経歴
2006年 横浜広告にてアメフト部に入部
2017年 現職に入社
2024年 横浜ベイクレーンズの監督に就任 


スポーツ経験と今

ー石井さんの今までのスポーツ経験を教えてください。
幼少期から中学生までは両親のすすめもあり、体操をやっていました。身体を動かす力はそこで自然と養われましたね。跳び箱やマット運動などいわゆる体操種目に属するものは色々やっていましたが、当時はバク転やバク宙もできたんですよ。周りからすごいねと言われることが嬉しくてモチベーションになっている部分もありました。

承認欲求が原動力に‐分析と実行をひたすら繰り返した競技生活‐

ーアメフトとの出会いを教えてください
高校1年生の時に出会いました。入学時に当時の部の先輩たちに勧誘されたのがきっかけです。元々体操をやっているときは体重が60kgもないくらいの細身だったのですが、アメフト部に入ってから身体づくりと食トレで80kgまで増やしました(笑)意図的ではありましたが、3年間で一気に20kg増やせたのは自分でも驚きです(笑)

ープラス20kgの増量はすごいですね(笑)アメフトを始めてから何か他にもご自身の中で変化はありましたか?
「メンタルの強さ」「耐久力」が培われたと思います。アメフト自体、高いフィジカルが求められますし、そこに相応するような精神力も必要になるので、アメフトという競技に親しんでいく中でそこは必然的にチカラとして身に付いたかなと思います。

ーフィジカルもメンタルも鍛えられたのですね。練習も厳しかったと思いますが、石井さんがここまでアメフトという競技を継続できた原動力はなんですか?
自分の承認欲求の高さでしょうか。小さいころから周りにすごいと言われることが嬉しくてモチベーションになるような人間だったので、承認欲求の高さは昔から兼ね備えていたのだと思います(笑)
いいプレーをした時のあの快感は何度味わっても堪らないんですよね。いいプレーを実現するためのプランは常に自分の中で思い描いていました。

ー“いいプレーを実現するためのプラン立て”はどのようにされていたのですか?
基本的に考え方や方法をノートなどに書き起こしたりはせず、頭の中でシミュレーションして完結させていました。常に考えている状態にあるので、自分の強み弱みは自然と分析できるんですよね。弱いところをどうすれば補強できるか応用を効かせた分析もしていました。何でもそうですが、やれば自分に返ってきますし、やらなければもちろん返ってこない。それどころか何にもなれません。常に自分をアップデートするための行動を起こすことは、大事だと思います。

ー自身を分析するにあたって意識的に行っていた工夫は何かありますか?
誰しもそうだと思うのですが、私は怒られることが本当に嫌で(笑)、怒られないために誰かが怒られている内容から学びを得て、逆に自分は何を求められているのかを読み取っていました。組織で求められているニーズを常にキャッチして、それを踏まえて自分はどこを伸ばせばチームに尽力できるかは常に考えていましたね。この分析をしていると、自分のこともチームのことも、分かる範囲が広がって面白いんですよ。そういった自己分析の面白さを見出させてくれたのもアメフトだと思っています。

ー具体的に大学生の時はどんな分析をして実行していたのですか?
大学のチームが全体的に身体つきは良かったのですが、足の速さが課題だったんです。自分の足が速くなれば、チームとしてのウィークポイントも補えますし、自分自身が試合に出場できる可能性も高くなると考えて、1,2年生は足の速さを強化するための練習を重点的に取り組んでいました。また、そこだけに満足せず、ディフェンスでのタックルの精度を上げ、足が速いだけでなく守備もできる、両方兼ね備えた選手になれるように、陸上部や専属トレーナーの力を借りてトレーニングやコツを追求していっていましたね。

ー自己分析力と自己開示力に非常に長けているのが分かるエピソードですね!ちなみに大学時代はキャプテンも務められていたんですよね?
そうですね。大前提としてチームを強くしていきたいという想いがありましたし、元々前に出て引っ張りたいタイプだったので、キャプテンに立候補しました。チーム全体の考え方を変えたかったんですよね。今の環境は周りの人の協力で成り立っているもので当たり前じゃないことの再認識したり、自分で考えて実行しつつも頼るべきところは頼っていけるような、分け隔てないチームを目指していました。

大学時代のキャプテン経験を経てチームの“監督”に

ー現在は横浜ベイクレーンズに所属し、今年度から監督にも就任。今のチームの魅力を教えてください。
「苦手」や「嫌い」など、マイナスな意識がチームにほとんどない部分です。現在選手だけだと約40名、チアを含めると50名ほどのチームですが、先輩後輩関係なくフラットにコミュニケーションが取れるようないいチームです。アメフトは競技の性質上、トップダウンになりがちな部分もありますが、チームとしてそれはあまり良くないと思っていて。上下関係なく関わり合うことで、コミュニケーションも取りやすくなりますし、より一層アメフトが楽しいと思えるような環境を作っていきたいと思っています。

ー大学時代のキャプテン経験があったからこそ築けるチームの土台ですね。今後のチームの具体的な目標を教えてください!
現在2部リーグにいるので、まずは1部への昇格を目指したいです。1部昇格に向けて、全勝する勢いで試合には挑みたいと思っています。また、それぞれが主体的に練習に取り組みつつ、自由度の高いチームの実現を目指したいです。


あくまでも後方からのサポートを‐就労支援サービスでの業務‐

ー現在の仕事はどのようなことをしていますか?
現在は就労支援という形で、障がいを持った方々のサポートをしていて、働きたいと思っていても障がいを理由に一般雇用が難しい人たちに対して、働く機会を提供しています。その方たちが仕事を通して想いを伝えたり、職員とコミュニケーションを取りながら自分のなりたい姿や自己実現ができるような支援する仕事です。

ー現職に就いたきっかけを教えてください。
元々ゼネコンで工事現場の監督をしていたのですが、正直アメフトに割ける時間がないくらい業務が忙しすぎて、負のループに入っている時期があったんですよね。改めて自分を見つめ直した時に、子供と関わる仕事がしたいと思ったんです。ですが自分には保育士の資格はない。ならば違う形で子供たちと関われる仕事をしたい、と探していた時に、障がいを持っている子供たちが少しでも自立度を上げるためのサービスの存在を知り、いろいろ調べていくうちに、現職に就くことにしました。

ー現職のやりがいは何ですか?
サービスを受けている方々の様子を見ていると、少しずつコミュニケーションが取れるようになって、雰囲気が穏やかになっていく様子が見てとれるんですよね。お互い理解しにくかったことが、対人コミュニケーションを通して分かり合えるようになるのは、とてもやりがいを感じますし嬉しく思います。

ー目に見える嬉しい変化はモチベーションにも繋がりますよね。石井さんが現職で心がけていることは?
こう表現すると少し冷たく聞こえてしまうかもしれませんが、あまり私たち側から積極的に手を差し伸べたりすることは控えています。何か壁に当たった時にすぐにパスが出される環境が整っていると、それが当たり前になってしまい、無意識にそういった状況になった時に甘えが生じてしまうんですよね。これは誰しもがそうだと思います。
なので、転ばぬ先の杖を出しすぎず、後ろで見守りながら自立を促していけるようにサポートするよう心がけています。

相手に頼らず自分で考えて行動を起こす「自力本願」

ー石井さんがスポーツ経験を通して得たチカラは何ですか?
「他力本願ではなく自力本願!」
自分の考えをベースにして行動を起こし、結果を取りに行けるようなチカラはスポーツ経験を通して得ることができたと思います。
相手に期待しているということは、その分自分は考えていないということですし、期待していたことが実現されなかったときに、きっとがっかりすると思うんです。元々人に期待しなければ、そういった事態は避けられますよね。
相手や周囲の環境に左右されず、自分で考えて行動することは競技者としての自分にも、仕事での自分にも活かすことができているチカラです。

ー今後新たに付けたいチカラはありますか?
「どんなことにも臆することなくチャレンジしていくチカラ」はつけていきたいです。どんな失敗も経験を咀嚼することで自分の深みになるはずですし、トラブルやストレスがあるからこそ、磨かれるチカラもあると思います。これからもいろんな経験を重ねていきたいと思っています。

ー石井さんが考える”スポーツの価値“とは?
「思い通りにいかないことも楽しめる考え方を得られること」がスポーツの価値だと思っています。他人から答えを教わるよりも、自分で見つけられるように探求して、見出した答えは深みがあるはずです。思い通りにいかない時はすごくもどかしさを感じますが、臆することなく多様な経験を重ねていきたいです。

石井さんとアメフトの今後

ー今後のアメフト界の展望を教えてください
本場のアメリカのような規模感は、競技場の数や競技人口的に少し現実的ではありませんが、「知る」ことはいつでも誰でも始めることができると思うので、やっている人をまず知ってほしいと思っています。そのためにも自分自身が入り口になるようにアプローチしていきたいです。

ー今後選手として、監督として、人として目指していきたい目標はありますか?
デュアルキャリアをやっている身としては、やはりもっと多くの人にこの働き方を知ってほしいなと思っています。限られている時間を効率よく活用していくことは、正直大変です。ですが、そこの効率性を高めた上で得られるものは、価値として非常に大きいです。仕事とスポーツの相互関係を上手く活かして、“デュアルキャリアをやっている人しか得られない充実”が広まるといいなと思っています。

最後に読者にメッセージ

皆さんにはスポーツを続ける・続けないに関わらず、自分らしさを大事にしてほしいと思っています。外野の言葉に惑わされず、自分が思うことに嘘をつかない選択をしてほしいです。
自分が満たされていなければ、周囲に影響を与えることはできません。遠回りしたとしても、自分で考えること・行動を起こすことを大事にトライ&エラーを繰り返していってほしいです。どんどんチャレンジしていきましょう!


編集後記

今までスポーツに対してマイナスな感情を持ったことがなく、常に「楽しさ」を原動力に、成長をし続けている石井さん。常に「楽しさ」が石井さんの根底にあるからこそ、周囲の方々は応援したい、頑張ってほしいと背中を押したくなり、素敵な関係ができているのだと思います。まさにデュアルキャリアの働き方として理想の姿だと感じました。

これからも応援しています。インタビューにご協力いただき、ありがとうございました。

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