すごいぞ、アスリート

陸上競技のプロ集団を経営、東京大学大学院で学ぶ陸上競技選手が所属するAMI AC SHARKSとは―

楠康成 / 高橋創(陸上競技)

スポーツ経験は、スポーツだけに還元されるものではなく、社会で生き抜くチカラに変換されていきます。
過去にスポーツをしていた、または現在もスポーツで活躍している人は、どのようにキャリアを選択して今、輝いているのか。
アスリート自身の経験談から「次の一歩」のヒントを得ていきます。
 

▼今回はAMI AC SHARKSに所属される楠さんと高橋さんにインタビュー!
経営者と選手、学業と選手といったそれぞれのデュアルキャリアを実現されているお二人の考えや、陸上競技への想い、またそれぞれどのようにチームのことを考えていらっしゃるか等、たっぷりお伺いしています!

楠 康成(以下、
SHARKSキャプテンであり、株式会社SHARKS 代表取締役社長
現在も現役で選手として活動しながら、会社経営をしているデュアルキャリアアスリート。
https://www.amiacsharks.com/


 
 ―高橋 創(以下、高橋
東京大学大学院在籍しながら、選手として活動。SHARKS Jr.のコーチも務める。
学問と競技を両立。


 

陸上競技と出会って―

―楠さん、陸上競技の出会いはいつですか?
 )僕は、両親が阿見アスリートクラブhttps://www.amiac.club/)というNPO法人を運営していて、幼少期から陸上競技が当たり前の存在としてありました。
兄も陸上競技していて、その練習に一緒に連れて行ってくれたことをきっかけに陸上競技に触れました。最初は兄に勝ちたい!と思ってスタートしましたね。
 
―幼少期から当たり前にある「陸上競技」以外に、他の事をしたい!という気持ちはありましたか?
 )ありました!サッカーをやりたくてやってみたことがあります。チームスポーツだからこそ、自分が悪い内容だったときに周りがカバーをしてくれる、優しい言葉をかけてくれることに居心地の悪さを感じてしまい、父のすすめもあって個人競技の陸上競技に挑戦することになりました。
今思えば、陸上競技の道を歩むように導かれていたのかもしれません(笑)。
 
―高橋さんのきっかけはどんな時だったのでしょうか?
高橋)幼少期から活発で、家の周辺などを走り回っていたそうです(笑)。それを見た母が、阿見アスリートクラブを知って、「陸上競技がいいんじゃないかな。」とチームに入れてくれました。
 
―陸上競技と出会って変わったものや考えはありましたか?
 高橋生活スタイルがガラッと変わりました。
中学生の時に、部活動に所属するか、阿見アスリートクラブに所属するか悩んでいましたね。阿見アスリートクラブは物理的距離もあり、親の送迎が必須でした。その中で親に「やるからにはやり切る責任を取りなさい。」と言われ、責任をもってやろうと決断できました。
その環境を与えてくれた両親には感謝しています。
 
)僕は、幼少期から陸上競技に触れていたので、出会って変わったもの、というのは具体的にないように思います。ただ、阿見アスリートクラブを運営している家だからこそ、想像できる未来よりもっと先の未来を描いていきたい、という考えを抱くようになっていました。
その中でできた答えが、今の「sharks」で、自分で創って挑んでみようということでしたね。
 
 
―なぜ今のsharksを創りたいと思われたのでしょう?
 )その当時は、世界を目指すトップチームが阿見アスリートクラブ内にもなく、世界を目指すチームを新規創設することが、陸上競技を頑張っている人の未来につながるのではないかと思ったことが始まりですね。
 
―そのように思われたきっかけはあったのでしょうか。
 )当時、大学卒業後に陸上競技(長距離)だけで収入を得ることは、マラソンや駅伝くらいしかなかったんです。
私自身、実業団に所属しているときも、人数がすごく多く、様々なモチベーションのメンバーがいる中で戦うことに疑問がありました。
そんな中で、自分たちが頑張ることで、中距離種目の「速い」ということが価値になり、選手の収入源を見つけることができるのでは?と思ったことがきっかけです。
 
高橋)自分の事だけではなくて、陸上競技界に必要だとされることを考えて行動していたんですね。
以前から、発信することや何が必要かなどを分析することは得意でしたか?
 
)いや、最初は言語化することは不得意で、メンタルコーチをつけていました。
客観視や言語化するトレーニングを経て、2年後の2017年にsharksを立ち上げました。
 
―自己分析をして、行動するチカラに長けてらっしゃいますね!
行動するのは好きだと思います。例えばプロになる第一歩目は、当時の銀メダリストにメッセージをして、世界で一番中距離が盛んなメキシコの合宿に参加させてもらいました。楽しいんです、新しいことをして行動することが!行動した先に何が必要か、見えてきますしね


 

陸上競技を続けてこれたのは―

―挑戦することが好きな中で、陸上競技一筋に続けられた理由は何ですか?
 )ラッキーなことに、走ることが好きで、得意で、褒められる環境もありました。
その時はほめられることが嬉しいと思っていましたが、大人になってみると違いました。
今は「こんな人になりたい!」といわれる人物になりたいと思って続けています。その手段が陸上競技で、今も現役選手を続けています。
 
高橋)僕は、中学生までは足も速くなく、ただ走ることが好きだったんです。高校生になっていくと記録が伸びはじめ、楽しいなと思っていましたが、大学に入学しその後も続けていて思うことは「走ることが好き」に尽きますね。いわゆる強豪校にいた経験は1度もありませんが、それでも勉強や陸上競技など、何をやっていてもお互いを尊重できる環境でいたことで、陸上競技が嫌いになることもなく、のびのびと続けられていたと感じます。
 

デュアルキャリアを選択した理由-

―楠さんは経営だけではなく、陸上競技を続けようと思われた理由は?
自分自身が現役でい続けたかったことが大きいですねまた、周りにも支えてくれる人が多く安心して始めることができました。徐々に子供たちの練習会や、父の営業に帯同するようになり経営を学んでいきました。人を「頼る」また「決断する」ということを大事に行動していたと思います。
 
―決断とは?
『決断』という字の通り、やることとやらないことを判断して決めなければいけません。全部価値のある大事なことだったとしても、やらないことを決めなければいけない。自分の価値ってなんだろうと考えたときに、やらないことを決めることができた時に見えてくるようになりました。そうなると、競技と経営を両立することにストレスもなくできるようになりましたね。だからこそ、競技を辞めずに今も続けられています。
 
―競技と仕事のモチベーションの保ち方を教えてください
)僕は競技と仕事に共有することが陸上競技なので、自身のパフォーマンスや自分たちの価値を上げるということが仕事でも大事であり、それこそが環境を守ること、競技力の向上になっていますね。
継続することが大事ですし、継続すると能力アップに繋がり、能力アップにより仕事の質の向上にもつながるので、いいサイクルができていると思います。
全てがいいサイクルで回ることが、モチベーションを保ちながら上昇志向でい続けられる理由だと思います。
 
―今デュアルキャリアをすることに悩んでいる方には、進めたい働き方ですか?
)そもそも、デュアルキャリアをしなくてもいい環境は、素晴らしいと思います。デュアルキャリアをやっている人が偉いというわけでもないですしね。ただ、形にしてみると仕事の面も自分の競技力に変換されるなと自分でも実感しているので、やれる環境があるのならばやってみるべきだなと思います。
一歩目が大事なんだと思います。一歩目を踏み出して、自分ができることを着実にやっていければ経験になりますね。


 
 

学業との両立―


 ―高橋さんは大学院でどのようなことを学んでいますか?
高橋)理論神経科学、認知科学を学んでいます。例えば、人間は机をどのように机だと認識しているのか、なぜ机だと分かるのか、といったようなことを研究しています。赤ちゃんの頃はわからないのに、大人になると分かるようになるには、どのような学習をしているのか、どのようになっているのかを知りたいと思っています。
 
―どのように研究しているのですか?
高橋)いまは人間と近いことができるAIを活用して学んでいます。具体的には、人で起こることの1つの仮説として研究しています。
 
―それは大学時代から学ばれている内容ですか?
高橋)大学4年生からそのゼミに入っています。物を買う時になぜそれを選ぶのか、などが気になって経済学部に入ったんです。でもそれは外側からの情報を見ただけで、実は脳の中で処理が行われているのではないか?と思って、今の大学院に入学し研究しています。
 
)す、すごい。自分でその脳の中とか気になったことないですね。
 
高橋)多分、気にならない方が当たり前の感情だと思います(笑)。
 
―学業と競技を両立するコツはどこにあるのでしょうか。
高橋優先順位を決めて行動すること、だと思います。ただこれは、大きな枠で「学業」と「陸上競技」で分けてしまうと難しいものがあります。なるべく要素分解をして、優先順位を決めるようにしていました。
勉強は勉強、陸上競技は陸上競技のそれぞれで、できないことをできるようにするにはどのようにしたらいいか考えて、メニューやスケジュールを決めていました。
それに、人に頼ることも大事にしています
 
 ―人に頼る、意外と難しかったりしますよね。
高橋)そうですね。自分で考えることも、もちろん大事です。ただ、一人でやれることって限界があると思っているので、自分の可能性を広げるためにも、人を頼っていく事が大事だと気づくことができましたね。
 
)僕も頼るということに苦手意識がある人って、アスリートに多い気もします。
でも、いったん頼ってみたら?と思いますね。関わる人が増えていくと、可能性が増えていきます今の陸上競技やっている子供たちには、いろんな人と関わって世界を広げることで、僕にはできないことをやってほしいなと思っています。その場所がsharksであれば、もっといいなと思うし、1人ずつの可能性を伸ばすことができる居場所にしていきたいです。高橋の今後も楽しみすぎます!
 
―楠さんから見て高橋さんの両立はどう見えていましたか?
自分に責任を持って行動しているのだろうなと思っていました。陸上競技を通して、自分の手が届きそうな目標と、もう少し上の目標を設定して追うことが上手な気がします。陸上競技をやりたいと入ってきているので、クラブでも目標を叶えるためにコツコツ積み重ねていくことが、今の学業などに活かしていけているのではないかなと思います。


 
 

実際の時間の使い方とこれから両立する人へ

―高橋さんは受験期も含め、どのように両立の時間を作っていましたか?
高橋)家から阿見アスリートクラブまで約2時間くらいあったので、隙間時間で単語を覚えるなど、その時間にできることをタスク管理していました。かっちり決めるのが得意ではないので、本当に大事なものを決めて、やれたらいいものをプールして、それこそ優先順位を決めてやっていました。振り返れば、時間的には大変な時期だったかと思います。ただ、自分だけが大変なのではなく、両親も送迎をするために時間を合わせて動いてくれていたので、感謝しています。
 
―大変な中で、やってよかったなと思う部分はありますか?
高橋)忙しいからこそ、身体のコンディションは保つ必要性があり、そこは大事にできていたと思います。当たり前の生活を大事にできますね僕は飽きっぽい性格なので、興味関心を複数持てることも良かった点です。両方とも好きだから続けていて、自分にとっては心地よい頭の使い方・使い分けを続けていく事ができているので、双方やっていてよかったと思っています
 
―学業と競技を両立されている方に何かアドバイスはありますか?
高橋)両方ともフルスロットルでやると、衣食住などの最低ラインを侵食してバランスを崩してしまいます。その最低ラインはしっかり保った上で、競技との両立をやってほしいなと思います。自分の心の余裕が生まれた上で、自分の優先順位を決めてやってみるのがいいのではないかと思います!
 

お二人がスポーツから得たもの―

―まずは楠さん、スポーツから得たものはなんでしょうか?
夢があり、幸せにしたい人がいて、そのためにはどのようにすべきか過程を考えるチカラを得ているように思います。僕は阿見町にスポーツ施設を創りたいという目標があるので、その目標を達成するためにやるべきことが定めていけます。誰を幸せにしたいかを見つけることができているので、仕事や競技にも活かすことができていますね。
 
―その原動力はどこから来るのでしょうか?
)育った環境が大きいかなとおもいます。陸上競技一家に生まれて、陸上競技やクラブの事を考える機会に恵まれ「この人たちを幸せにしたい、影響を与える人になりたい」と思うことができていることが原動力になっています。それがないと何のために頑張っているかわからないと思います。今まで僕も同じように考えてくれる人が周りにいたことも大きいと思います。
 
―クラブにいる方がどんな活躍をしてくれるか、楽しみになりますね。
)そうなんです、ワクワクします。学ぶきっかけは沢山あることに今になって気づきましたね。自分自身海外に行って英語を学んだり、多くの経営者の方から教えをいただいたり実践して体験することがどんなに大事か実感しているので、高橋君をはじめ、クラブにいるメンバーがより多くの事を体験し自分のものにしてくれるのか楽しみです
 
―高橋さんはどんなチカラを得られましたか?
高橋)何が大事で大事ではないか、またやらなかったからと言ってダメではない、といったことを判断できるチカラを得ていますね。陸上競技だと絶対に必要なことと、時間が空いたらやるべきことの「重みづけ力」を得たとおもいます。それは受験期も含め今の学業にも活きている部分です。
 
)学生のころから気づいて行動しているのがすごい!
 
高橋)実践のレベルがまだまだですが、陸上競技のおかげですね!
 
―学業から学んで陸上競技に活かしている部分もありますか?
高橋できないときの分析力ですかね。名前がないものに名前を付けられるようになりました。陸上競技でももちろん基礎的にはありましたが、研究はすぐ躓くんです。なぜできなかったか、ということを分析して次につなげる機会が圧倒的に多いんですね。そのチカラを陸上競技にも活かしているとき、なんとなくやっていたものが明瞭化されたと実感できます。


 

スポーツの価値とは

―陸上競技に対してまっすぐな気持ちのお二人にとって、スポーツの価値とは何でしょうか
)僕は団結することだと思います。そこができると、人を知り、競い、交流が生まれるきっかけが生まれる身近なものがスポーツだと思っています。子供の夢、平和などを叶える手段としてスポーツがあり、その価値だとおもいます。
 
高橋自分の全力を出せる事、だと思います。何かを全力でやることは、日常あまりないと思います。スポーツだけというわけではないですが、楠さんの言っているように全力を出した先に人とのつながりがあり、仲間意識も生まれると思います。そこがスポーツの価値だと思いますね。
 

 これからの陸上競技、そしてチームとは

―これから陸上競技界はどのようになってほしいと思っていますか?
)陸上競技は多くの方が知っているスポーツではあると思いますが、なにが面白いかがもっと浸透していくと嬉しいなと思います。多くの方がファンを巻き込んで考えてくださっていますが、選手一人ひとりがその課題をしっかり向き合えるような人材がsharksに集まってほしいとも思っています。経済活動も大事ですし、自分の事を知ってもらうために危機感をもって1人ずつ行動していける陸上競技界になってほしいです。そしてsharksが行動していきたいと思います。
 
―チームとしてはどのようになっていきたいですか?
3つ大事にしたいことがあります。
1つ目はトップチームとして世界を目指すこと。世界に挑戦していきたいですね。
2つ目は、地域に根付く陸上競技チームにしていきたいです。阿見町を中心に陸上競技の能力が生かされるための仕事を作っていきたいです。
3つ目は、今sharksに所属している南スーダンの選手を中心に、発展途上国への支援も社会貢献の一つとして行っていきたいです。スポーツの価値や、スポーツをすることができるありがたさもそうですし、ワクワクすることというのは、教科書に載るような価値があると思っています。今まで自分たちが学んできたように、これから歴史を作っていく国にsharksや陸上競技界全体が携われていけたらと思っています。
 
高橋)僕は楠さんのように引っ張っていくような部分ではありませんが、大学院と陸上競技というデュアルキャリアをしているような人でも陸上競技を本気でやっているんだということを知ってもらい、誰かの力になるような、影響力のある人材になっていきたいと思っています。


 
 

編集後記

立場の違うお二人から陸上競技と経営・学業との両立、またチームや陸上競技の今後について伺いました。それぞれの方法や考えをもってひたむきに陸上競技に向き合う姿は、これから陸上競技界に変化をもたらしていくチームなのであろうと感じると共に、今後のご活躍が更に楽しみになるインタビューでした。高橋さんは大学院で、楠さんは経営者として、そして陸上競技選手として輝き続けるお二人を応援しております。インタビューにご協力いただき、ありがとうございました。
 
 

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