アスリートインタビュー

石塚晴子選手(陸上競技・400m・400mハードル)

株式会社ローソン│TWOLAPS所属

こんにちは!渡邉ひかるです。
インタビューしたアスリートから次のアスリートへバトンを繋ぎ、普段聞けないような現役選手のキャリアの面や競技への想いを取材していきます。
競技とキャリアの双方で頑張るアスリートの様々な面を知ってもらえればと思います。

石塚晴子選手
株式会社ローソン・TWOLAPS
陸上競技(400m・400mハードル)

プロフィール

2017年10月~株式会社ローソンに所属
TWOLAPSにて週3~4日練習・その他の日は個人練習
趣味 絵を描くこと・読書
今年初めてグッズのデザイン依頼を受けたそうです!

経歴

400mハードルU20日本記録保持者
400m日本学生歴代3位
2015年インターハイ女子MVP受賞

1日のスケジュール

9時~12時 練習
14時~17時半頃 会社またはリモートにて仕事
18時半~19時頃 帰宅

現在、株式会社ローソンにてデュアルキャリアを行っている石塚選手。競技だけでなく仕事にも積極的に取り組んでいる石塚選手に、仕事や競技で大切にしている事や、競技以外のお仕事についても詳しくインタビューさせていただきました。

インタビュー

Q:お仕事内容を教えてください

人事部門にて労務管理のお仕事を主にしています。全国にあるお店の人達が安心して働ける職場の環境づくりのサポートをしたり、たくさん活躍してくれている外国人のクルーさんたちの就労のルールがしっかりできているかなど管理・申請したりするお仕事になります。

Q:入社当時から人事のお仕事をしていたのですか?

入社して数カ月は大阪におり、その時はローソンの店舗で勤務していました。ずっと部活漬けで生きてきたのでお店に立って働くのは初めてで戸惑うことも多かったですが、楽しかったです。
トラックに立つと「石塚さんだ」と注目されることやみんな自分のことを知っている、という状況も多いのですが、ローソンのお客様からしたらただの店員で、どこに立つかにおいて自分の立場・見え方が変わるのが面白かったです。何十年も働いてる人の仕事ぶりを見てかっこいいと感じるなど、いろんな出会いもできました。

Q:人事のお仕事は具体的にどんなことをしていますか?

1年目ははんこを押す、書類を出す、などの仕事で、内容を全く理解していなかったのですが、「なぜこの業務が必要なのか?」を考えるようになり、今では業務のリーダーを任されたり様々な仕事ができたりするようになりました。同じ業務でも奥行がでてきて、いい経験ができていると感じます。

仕事も大切にしている理由は?

Q:お仕事を頑張ろうと思えるようになったきっかけはありますか?

2つあります。1つ目は、陸上をしていない自分の姿に全然自信がないということに気づいたからです。今まで陸上でキャリアを作ってきて、勉強やバイトを頑張った経験も無いので、陸上をとったらなにも残らないのではと思っていましたが、自分からみてバリバリ仕事をしているビジネスマンも実は1つ1つ躓いたり、わからないことを調べたりしながら1歩ずつ前に進んでいることを知って、自分も今はわからなくても1つ1つ調べたり聞いたりしながら頑張ればいいし、そういう積み重ねで自分に自信が持てるのではないかと思うようになりました。その後は勤務のスケジュールを見直してより仕事に関われるようにしました。
2つ目は、競技結果だけでは恩返しはできないと思ったからです。もし私がメダルをとったりベスト出したりしても、会社の業績が上がるわけではないです。もちろん周りの人は喜んでくれるしそのためにやっているけど、それだけでは返しきれないものを会社からいただいているので、どうやったら恩返しできるのかを考えました。その時、ローソンの企業理念の『みんなと暮らすマチを幸せにします』に対して、陸上という切り口でどうやって貢献できるかな?と、会社の役に立ちたいと思うようになりました。そうやって仕事も1つ1つやって自分に自信を持てて、自分を大事に誇りに思えるようになればいろんなことに役立つのではないかと思っています。

Q:お仕事でのモチベーションはどんなところにありますか?

自分が業務についてわからない立場だからこそ、現場もそうなのではないか?という発想で、あえて「わからない」という視点を活かしてやりづらいところ・わからないところを積極的に発言するように意識しています。
それが形になったら嬉しいし、自分の案で行こうとなったときは良い経験になって自分の中に積もっているなと感じます。1つ1つクリアしていて振り返ったら意外とたくさんのことができていたなと嬉しくなります。

競技のモチベーションは?

Q:では、競技の面ではどうですか?

競技成績だけでいうと昔の自分は越せてないし練習頑張りたいと思う気持ちに波があります。しかし、記録・大会での「個人がどうなるかという目標・想い」よりは、今陸上界にある課題や、いやだ、理不尽だ、と思っていることを今後陸上をしていく子供たちに残さないために何ができるかを考えながらトラックに立つことに意味があると思うようになりました。
自分がどうなるかより、今後に良いものを残したい、どういうものを残せるかを考えながら競技をする事が今は楽しいし、モチベーションになっています。

Q:具体的には、どういったことなのでしょうか?

1つ目は女子選手を守るユニフォームの開発。2つ目はメンタルヘルスケアです。どちらもまだ動きだしたばかりで、どういった形で具体化するか考えているところなのですが、講演会や陸上教室などで考えており、モデル確立の実現に向けて進めています。
また、去年コロナウイルスの影響で実現しなかったのですが、ローソンの冠をつけた大会を開催し、その中で私の陸上教室をしようという計画もしていました。ローソンは全国にコミュニティがあるので、絡めていければと思い、人事本部・チームの皆さんと話しています。そういうことを考えていることが多いし、楽しいです。

未来のキャリアへの考え方

Q:陸上競技だけでなく、仕事や社会活動にも力を入れていきたいという意思を感じますが、なにか理由はありますか?

前までは自分に起こった出来事・仕事などのいろいろな経験はすべて陸上で結果を出す未来に繋がっていると思っていましたが、今はその逆になり、今こうして自分が陸上をしている事は自分のこの先の未来・キャリアに繋がっているという感覚になりました。この考えが逆転したことは自分にとってとても大きいことで、陸上を一生やるわけではないという当然の事実から逆算して、自分がどんな仕事をするのか、何をしていくかをイメージするようになりました。これは全く後ろ向きの考えではなく、「そんなことを考えずに陸上に集中しろ!」なんてことは絶対にないはずです。

Q:競技と仕事それぞれで大切だと思うことを教えてください

双方を切り離して考えず、いつか繋がる瞬間があると考えています。双方が刺激になったりリフレッシュになったりしていて、これは「めんどくさいな」「やる気ないな」と思いながら仕事をしたら生まれないものです。
逆に全然違う考えにも触れることができ、ビジネスではこういう考えなんだ、など視野が広がったり考え方が変わったりします。
こういう体験は自分が限られた層にいるな、と教えてくれる場だと感じます。自分が社会のどこにいるかは何をしているかによって変わるので、アスリートにとって仕事と競技を両立することは大切だと思います。

多くのアスリートがぶつかる『壁』

Q:社会人になってから直面した壁はありますか?

学生の頃は期間・目標がみんな同じで、同じ大会を目指して目標を決められます。小さな地図の中にピンが1つ立っていて、みんながそこに向かって集まる感じです。しかし社会人は目標を立てるのが難しいです。レベル・時期は人それぞれなので、広大な地図のなかでここを目指す!と自分でピンを立てなければなりません。このピンは、「なぜここを目指すのか?」という明確なものがないと立てられないのですが、なぜそうなりたいのか、わからなくなりました。社会人陸上で多くの人が当たる壁だと思います。
目標がないと練習できつい場面で踏ん張れなかったり、練習しているのに記録が出なかったりするので、まさにそんな感じでした。
日本選手権標準のタイムを切るには記録会から出ていくことになりますが、この試合でこうなりたい!と思っていても、高校までで当たり前にできていたレベルが高すぎて常に過去と比べて苦しんだこともありました。
でも会社からは手厚いサポートを受けているしと、理想と現実のギャップが大きくなってしまっていました。

Q:私もまさに同じ壁を経験しました。石塚選手はこの壁をどうやって乗り越えましたか?

スポーツの世界では、世界1位じゃないと全員負けです。世界で1位を取り続けるのは不可能で、どこかで負けを味わうことになります。
でも、勝つことにしか価値がないのであれば、私たちはとっくにスポーツをやめていると思います。
海外ではプロはとても厳しいですが、日本には(プロとは違い)「実業団」という独特な制度があります。この制度は、仕事と競技を両立させたり、社員としてどうしたら社会に貢献できるか考えたり、自己表現をしたりすることで味が出ると思っていて、これを社会活動に活かす切り口はいくらでもあると思います。「こんな結果で何やってるんだろう」「申し訳ない」「価値がないのかもしれない」と思わない年はありませんが、大会運営などを通じて、どんなレベルでも、子供から大人までが、自分の出したい記録めがけて走って、笑顔になったり称えあったりしている姿をみて、スポーツをやる喜びはこういうところにあるな、と思えるようになりました。私たちが子供に教えたいのは「自己成長・自己表現のためにスポーツをやっていること」なのに、何よりも自分が一番結果に縛られているのではないかと気づいたんです。
勝たなきゃ意味がない、勝たなきゃアスリートとして発言に説得力がない、と言われる方もいますが、私は「勝って結果を出しても大事なことに気づけないのであればもったいない」と思います。

大会運営を通して

Q:そんな石塚選手が、最近嬉しかった出来事はありますか?

自分が運営に関わった大会(TWOLAPS MIDDLE DISTANCE CIRCUIT)の大阪大会で母親がボランティアに参加し楽しかったと言ってくれたことが1つと、東京大会で全員(年齢制限なし・ボランティア・観客・陸協の方も)でリレーしたことです。それがめっちゃよくて・・・!
普段職場でお世話になっている方も参加してくれて、その方からバトンを受け取る走順に配慮してくださいました。個人の所属なのでバトンを握ったのも久々だったのですが、大好きな上司とバトンリレーすることができて楽しかったですし、みんなが笑顔で、走り終わった後も立場・年齢・性別・競技レベルもバラバラの人たちが1つになったんです。その景色が良すぎて感動して泣いてしまいました。
また、大会運営に携わることで陸上の見え方も変わりました。陸上を楽しんでいる大人の方や子供たちの存在が、自分が限られた世界にいたんだなと教えてくれたような気がします。

Q:最後に今後の目標・夢を教えてください!

先ほどお話した事業を形にするのが今の1番の目標です。それが自分の競技にどう変化があるのかも楽しみです。今感じている課題を解決するにはどうすればいいかというところに力を注ぎたいです。

取材後記

今回は株式会社ローソンの石塚晴子選手にお話を伺いました。
プロではなく、競技とお仕事を両立する実業団に所属し、積極的に社会活動や競技での課題解決へ取り組んでいる姿は、これから陸上競技にチャレンジする子供やアスリートへ多くの影響を与えることができると感じます。石塚選手にしかできないデュアルキャリアで、今後もどのような取り組み・競技の形を魅せてくれるのか注目していきたいと思います!
取材にご協力いただきありがとうございました!

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