すごいぞ、アスリート

”仕事と競技の両立”から見えてきた ‐ 真のカバディ ‐

河手 佑天(カバディ)

スポーツ経験は、スポーツだけに還元されるものではなく、社会で生き抜くチカラに変換されていきます。
過去にスポーツをしていた、または現在もあるスポーツで活躍している人は、どのようにキャリアを選択して今、輝いているのか。
アスリート自身の経験談から「次の一歩」のヒントを得ていきます。

河手 佑天(かわて ゆうてん)
競技はカバディ。
小学校から高校まで約12年間サッカーを経験。大学の授業でカバディと出会い、類い稀な才能を発揮。
競技を始めてすぐ、大学1年の秋に開催された全日本大会に出場し強化指定選手に選出。国際大会への出場を経験。
大学卒業後はIT系の会社でアスリート社員として活躍しつつ、競技継続はもちろん、カバディ協会の業務も担う道を歩む。
現在は転職し、病院でトレーナー業をしながら、2026年に愛知で開催されるアジア競技大会のカバディ競技の運営に携わっている。
―経歴
2016年~カバディ日本代表強化指定選手
2021年~株式会社 ProVision 広報・採用関連の部署に所属
2023年~医療法人永仁会 SHAFT Medical Fitnessに所属
一般社団法人日本カバディ協会所属


スポーツ経験と今

ー河手さんの今までのスポーツ経験を教えてください。
小さいころから色んなスポーツを経験していたのですが、友達と一緒に始めたサッカーに落ち着き、小学校から高校まではサッカーをしていました。
大学に入るタイミングで、サッカー部に所属するか、あるいはフットサルに移行するか、はたまた趣味程度で続けるか、非常に悩みましたね。悩んでいたタイミングで、カバディと出会い、最終的にはカバディ選手として活動することになりました。
 
―現在の仕事はどのようなことをしていますか?
医療法人永仁会 SHAFT Medical Fitnessでトレーナー業をしています。並行して、カバディ協会で協会運営等の仕事もしています。トレーナー業は病院の中にある健康増進施設で、50代~60代の方々を中心にトレーニング指導を行っていて、カバディ協会ではHPやSNSの運営管理や、大会準備・進行全般などを行っています。
大変ですがどちらもやりがいのある仕事です!

アスリート社員の在り方とそれがもたらすもの

─前職はIT関連の会社で仕事と競技を両立していたそうですね。
はい。実は前職での経験が、今のカバディ協会での業務に活きているんですよね。
前職はIT関連の会社で、アスリート社員として採用されました。広報や採用関連の部署に配属され、HPやSNSの運用管理、社内報の作成や動画編集などに携わっていました。当時は新設部署で、その道に精通したメンバーがいなかったので、基本的にはすべて自分で調べながら業務を進めていましたね。自分から学びに行くような自発的な姿勢は、少なからず、スポーツ経験から培われたものだと思っています。
 
ーアスリート社員で採用されたということは他にもアスリート社員が?
社内には自分以外にもアスリート社員として採用・活躍されている方はいましたよ。
競技は違いますが、同じ“アスリート社員”というフィールドで頑張っている者同士、とても刺激を受けていましたね。
 
─頑張っている人が身近にいると周りも活気づきますよね!
そうですね。アスリート社員がいることのメリットの1つは、「社内の雰囲気づくり」でしょうか。自分自身も、仕事も競技も両立している他の社員を見るとやはり刺激を受けていましたし、いいエッセンスになると思います。また、社員みんなで応援をしたくて試合観戦に行くこともあり、業務や部署を越えた交流や絆の深まりも感じていましたね。

偶然繋がったカバディに魅了される日々

─改めて、カバディとはどのような競技でしょうか?
ドッヂボールのようなコートで行う7人対7人のチーム制スポーツです。
攻撃側は相手のコートに入り、相手チームの誰かをタッチしてコートに戻ります。戻るまでにタッチした人数分が得点です。
守備側はコート内を逃げながら、攻撃側をコートに返さなければ得点獲得となる仕組みです。
他の競技と異なる特殊なルールとして、攻撃側は攻めている間、「カバディ」と叫び続けなければならないという一風変わったルールがあります。
(詳しくはこちら:https://www.jaka.jp/about-kabaddi/regulations/
 
インド発祥のスポーツなので、競技人口としては南アジアで多いです。日本で言うサッカーや野球などの位置づけになっている国民的スポーツですね。
 
ーそんなカバディと河手さんとの出会いを教えてください
大学1年生の体育の授業で、カバディをやる機会があり、その際に大会メンバーとしてスカウトされたことがきっかけです。
 
ーその大会でカバディの魅力に引き込まれたのですね!
その大会は1年の夏休みに開催されて、実際に試合に出たら、カバディの面白さにハマってしまいました。
そのあと本格的に練習も始め、同じ年の秋に開催された大会にも出場しました。その秋の大会で強化指定選手に選ばれることになり、日本国内だけでなく、国際大会にも出場する機会が増えていきました。
高校までずっとサッカー一筋だったので、大学から心機一転して新たな競技に挑戦することに当時は不安もありましたが、どんどんカバディというスポーツに魅力を感じ、ちゃんと向き合うことを決めました。
 
―河手さんが思うカバディの魅力を教えてください。
激しいコンタクトプレイがある一方で、目線やステップなどで行う繊細な駆け引きがあるギャップは魅力の一つだと思います。相手側をどう減らしていくかといった戦術面を考えるのも楽しいです。
 
ーちなみに、カバディの日本代表として意識していることはありますか?
自分は基本的に攻守ともに出来るプレースタイルですが、日本代表の中だとディフェンスを任されることが多いです。またプレーだけではなく、ベテランプレーヤーと新人プレーヤーの間に入り、チーム全体のバランスを図ったりすることも意識しています。


気づき - デュアルキャリアだからこそ見える視点

ー仕事と競技を両立する中で、大事にしている考え方はありますか?
自分自身の考えにはなりますが、1日の練習時間を1~2時間くらいだと考えると、仕事している時間を減らしてまで、競技に振り切る必要はないと考えています。
長く練習すればするだけいいみたいな風習や考え方は、ちょっと違うかなと思っていて。時間が十分に割けないからといって、不安になる必要は全くないと思っています。それよりも練習時間を1~2時間確保した上で、その他の時間をどう使うかが大事になってくるのかなと。
 
ー“競技だけ”に固執しない考え方ですね。
そうですね。カバディしかやっていないと、“本当のカバディ”を知ることができないとも思っています。やっぱり競技一本になってしまうと、どうしても競技の内側に限った視野になってしまって、競技から離れた外の世界での発信力に制限がかかってしまうと思うんです。競技と関わりのない人と仕事したり、会話をしたりして、考え方の引き出しを増やしていけるといいですよね。デュアルキャリアをやっている人にしか見えない、デュアルキャリアをやっているからこそ見える要素も、あると思いますよ。

スポーツ経験を通して自分の武器になったチカラ

ー今までご経験されたスポーツと仕事で共通して活きているチカラはありますか?
言語化能力でしょうか。
スポーツだと、試合中にそれぞれのポジションの状況や考えを言語化してメンバー同士で共有することで、残りの試合をどう進めるか、戦術などを考えることができます。
仕事をしている場面でいうと、「この瞬間!」というよりも日々の報連相に近しいですね。相手に必要な情報を分かりやすく伝える能力は仕事でもとても大切だと思っています。競技でも仕事でも、言語化能力は常に強化されている気がします。
 
ー「言語化能力」は意識してすぐ身に着けられるものではないですよね
そうですね。競技をやっているからこそ自然と強みになっていった部分だと思いますし、だからこそ意識しなくてもビジネスの場面や日常的に適応できるようになったのかな、と思います。
 
ー逆に仕事での経験から競技に活きていると思う部分はありますか?
タスク管理、スケジュール管理、人を巻き込んだ管理は、実際に組織の中で働いてみないと分からないと思います。社会人として集団組織に属したことが、そういった管理能力の習得に繋がったと思っています先ほども少し触れましたが、実際に代表チームでは、チームのバランスを取る上で、ベテラン勢と新人勢の間に入りながら立ち回ることもあります。仕事で学んだ人を巻き込む力などは、競技でも活かされていると実感します。

スポーツの価値はトライ&エラーの繰り返しができること

ー河手さんにとってスポーツの価値とは?
準備をしっかりした上で、トライ&エラーを繰り返すことができるところでしょうか。
良い結果も悪い結果もすべて自分に返ってきます。その結果を受け止め、考え、次の行動につなげるという経験は、人生においてかけがえのない価値に繋がると思います。

今の河手さんから見た、カバディや自身の未来

ー河手さんが考える、今後のカバディの展開を教えてください。
日本でカバディを広めていくために、まず競技環境の整備をしたいです。カバディのできる場所が関東圏に集中してしまっている現状があるので、地方にも競技ができる施設や設備を充実させていきたいです。カバディが身近になることで、若年層の競技人口の増加も図れるのではと思っています。
また、カバディに限ったことではありませんが、デュアルキャリアの働き方や理解はもっと広めるべきだと思っています。やはり、社会人になるタイミングで競技から離れていく選手は大勢いるので、主力選手が社会人になっても競技を継続できるような環境は整えたいですね。
 
ー河手さんご自身の今後の展望は?
プレーヤーとしては、やはり2026年に開催されるアジア競技大会への出場を第一の目標として掲げています。コンディションをピークに持っていけるよう、競技者の一人として更に力を入れていくつもりです。2026年の春くらいに代表が決まる予定なので、一選手として選出されるように頑張ります。
仕事面で言うと、トレーナー業では健康事業の促進に貢献したいとも思っていますし、デュアルキャリアの働き方は身をもって広げていきたいです。一人でも多くのアスリートが働きながら少しでも長く競技を続けられるよう、行動で示していきたいと思っています。
 

最後に読者にメッセージ

仕事をしながら競技をするということは、プロのアスリートでも難しいことです。
仕事の時間があることで、競技の練習時間が削れることを不安に思うかもしれませんが、「量より質」として考えることもできますし、仕事で得た経験、競技で得た経験は、双方のフィールドで活かすことができます。そして何より、視野が広げることに繋がります。
デュアルキャリアを頑張る方々へは、同志として、仕事や競技を含め様々なことにチャレンジし、人生に活かしていきましょう!
カバディ

編集後記

偶然出会ったカバディで、デュアルキャリアの道を歩むことになった河手さん。
カバディしかやっていないと、本当のカバディを知ることができない」と語る河手さんからは、デュアルキャリアをしているからこその広い視点や、デュアルキャリアを通じて得られている充実感などを感じました。
2026年のアジア競技大会で代表選出されるよう、これからも応援しています。
インタビューにご協力いただき、有難うございました。

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